ブロックチェーンの活路は人工知能との連携にあり(北野宏明)

ブロックチェーンによる自律分散型組織 (De-centralized Autonomous Organization: DAO) 台頭の可能性を三つの視点から見ると,

  1. 中央集権型企業がプライベートブロックチェーンを展開し, その信用補完機能やコスト優位性によって新たなマーケットやプロダクトの取り込みを図りフロンティアを広げる
  2. ネットワーク構造の適応進化からブロックチェーンの取引ネットワークもスケールリッチになることが予想され, 中央集権型企業が巨大ハブとしてプライベートブロックチェーンを展開し, 企業同士がバックボーンを展開する構造になる,
  3. 物理世界に組み込むにあたり, 事故トラブル補償や品質差違といった物理世界に起因する問題を解決できる瑕疵責任の引き受けが発生する

と DAO に主流が移るよりは既存の Airbnb のようなメガベンチャーによるハブ, プラットフォームを補完強化することになると置き, またネットワーク構造から見てもパブリックチェーンが支配的になる世界よりはバックボーン + コンソーシアム/プライベートチェーンを巨大企業群が形成し, そこにパブリックチェーンが組み込まれる世の中を予想している.

また

ブロックチェーンは, その分散台帳機構により, 従来では限定的であったP2P取引でのリソースやサービスへのアクセスを拡大し効率化する道具である .. スマートコントラクトは, ブロックチェーンによる取引を自動化する技術である .. AI によって物理世界で提供されるスキルの質が安定化すれば .. 現在経済に組み込まれにくい部分が市場に組み込まれ .. これは本質的に品質の揃ったスキルへのアクセスが可能となり, スキルのネットワークが構築可能となることを意味する

AI によりスキルが均質化されることでブロックチェーンの組み込まれる対象が拡大する(物理世界起因のリスクや事故トラブルによる瑕疵対応といった人間介在のタスクが減り, 例えば電力取引のようなより情報的な存在になることで情報技術が扱う範囲の支配率自体が上がる)ことで巨大企業による瑕疵責任引き受けから均質化されたサービス + 派生サービスへのアクセスをブロックチェーンネットワークが土台として担う予想も描かれている.

この中で ゆらぎ のような人間的なランダム性やカオスを価値提供する存在がパブリックチェーンや DAO によって形成され, 企業の提供するネットワークに繋ぎ込まれ, その部分こそがパブリックチェーンになるだろうという結論付けがなされている. (暦本純一による Internet of Ability の世界に予想を重ねている)

また AI の品質を保証する - 恣意的な学習が施されていないことを学習データに対するブロックチェーン管理により保証する, といった話も面白かった.

ブロックチェーンと企業戦略

TCP/IP の発展に重ね, 企業によるブロックチェーンの利用は次のような段階に分けられると考察している.

  1. 単体での利用: ビットコインのように独立機能するアプリケーション
  2. 局地的な利用: 単体利用を土台に, 局地的な非公開ネットワークを構築し, 分散台帳でつながる(例えば hyper ledger)
  3. 代替的な利用: 上記を用いて既存の仕組みをリプレースする
  4. 変革的な利用: いままでにない新奇な利用. 成功すれば社会や経済, 政治システムの性質そのものを変える可能性を持つ(例えばスマートコントラクトが発展した未来)

具体的にそれぞれのレベルを TCP/IP の発展段階に紐付けて説明しており, 具体的なこれまでの利用例やアプリケーションも記載されているので面白い.

中でも代替的な利用例として上げられているステラが非常に興味を惹いた.

銀行口座や少額決済, 送金などの金融サービスを利用する機会が今まで一度も得られなかった人々に, そうしたサービスの実現を目指す NGO である. ステラは独自の仮想通貨 ルーメンを発行し, 利用者はステラのシステム上に他の通貨やプリペイド携帯の通話権, データ利用権など様々な資産を保管できる. ステラは最初にアフリカ, とりわけ最大の経済規模を持つナイジェリアに注力した. 狙った大衆層にはかなり利用され..

とあり, またビジネスモデルが経済的に成り立つと証明されたこと, 但し銀行のようなインフラ, Next Ordinary になるには国や既存大組織の利用といった「繋ぎ込み」が必要であることが書かれている. (寧ろそこまで進んでいることに興味を惹かれた)